もう一つは、人間に目を向ける方法です。それは、聖書が人間についてどう語っているかに目を向けることでもありますが、同時に、自分自身に目を向けることでもあります。自分自身にも目を向けなければ、聖書が描いている人間についてきちんと理解できないからです。
聖書に描かれている人間は、聖書自身のことばで言えば「罪」にまみれた人間です。その「罪」にまみれた人間は、ほかならない自分自身でもあるのですが、その人間と向き合うことを抜きにしては、キリスト教を理解することはできません。そういう意味で、「罪」についての質問を、決して軽く見てはいけないのです。それを抜きにしては、キリスト教を正しく理解できないからです。
さて、聖書の中で「罪」について、非常に明確なことばが記されています。それはヨハネの手紙第一の3章4節のことばです。
「罪を犯す者は皆、法にも背くのです。罪とは、法に背くことです」(新共同訳)。
つまり罪とは法に背くこと、法があってもその法を無視して従わないことです。この場合、聖書が述べている「法」とは、「神様のみこころ」と置き換えてもよいことばです。つまり、罪とは「神さまのみこころに反すること」なのです。
ところで、聖書の舞台となっているイスラエルの国では、ヘブライ語が使われていましたが、そのヘブライ語で罪のことを「ハッター」と言います。ハッターのもともとの意味は「的をはずすこと」だと言われています。つまり、神さまのみこころから離れた的はずれな生き方こそ、罪に染まった生き方なのです。しかし、実際にはわかったようでわからない説明です。ですから、神のみこころとは何なのかがわからなければ、キリスト教で言う罪もわからないはずです。次のようなことばも聞きます。
「教会では人は皆罪人だと言うけど、自分は罪なんか犯したことはない。」
そのモーセの十戒を、イエス・キリストは二つのことばに要約されました。一つは神を愛すること、もう一つは人を愛することです。もっとまとめれば、結局は「愛」という規準に従って生きているかどうかが問われているということです。自分のとった行動の一つ一つが、神や人を愛する気持ちから出たものであるかどうか、その行動を支えている心のありさまが問われているのです。
たとえば、貧しい人たちの生活を支援する行為は、純粋な隣人愛からも出ますが、ただの名誉欲から出る場合もあります。あるいは、中傷に苦しんでいる人の味方になるのは、純粋な隣人愛からも出ますが、単に誹謗中傷を楽しむ人たちの仲間に加わりたくないという自己愛や自己保身から出る時もあるのです。
聖書が教える「罪」とは、内面のあり方が問われているのですから、「何かをしない」ことで罪から免れているとはいえないのです。実際に人を殺していなければそれでよいのかと言えばそうではありません。心に恨みや憎しみを抱くこと自体が愛に反するものとして、罪であると言われます。それでは恨みや憎しみを抱かないでいればそれですむのかと言えば、それもまた違います。それは「無関心」という愛の欠如の罪である場合もあり得ます。その人に関心を抱き、その人に対してなすこと、なさないことのすべてが愛から出ているのでなければ、それは罪なのです。
そのようなことまでが罪だとすれば、結局いたずらに規準を引き上げて、人間には手の届かない世界を理想として掲げただけではないか、という反論も聞こえてくるかもしれません。たしかに、人間には手の届かない規準であると思われますが、この規準を心の内で破るところから人間のあらゆる悲惨が生じているとする聖書の洞察は、鋭いものがあると思います。
聖書の人間像と自分自身の姿を、どれほど真剣に重ね合わせることができるのかが、聖書の教える「罪」を理解する重要なポイントであると思います。
自分の心の内にある、愛のない行動に一つでも気がついたとき、おそらく、聖書の描く罪がもっと身近に感じられるでしょう。
山下 正雄 著「悩んでいないで聞いてみたら?」キリスト教Q&A シリーズ(いのちのことば社)より
迷っているとき、悩んでいるとき、苦しいとき…。そんなときは、聖書のこの個所を読んでみてください。
⇒ 孤独でさびしい
⇒ 悲しい、慰めがほしい
⇒ へこんで、立ち直れそうもない
⇒ 疲れた
⇒ 失敗できないことが目前に迫っている
⇒ 悪い習慣がなかなかやめられない
⇒ 決断できない
⇒ 健康を害している
⇒ 外見や人目が気になる
⇒ 不安だ。安心したい
⇒ ほしい物が尽きない
⇒ あれこれ心配して眠れない
⇒ 年をとるのが怖い
⇒ 死ぬのが怖い
⇒ 自分は価値がないと感じる
⇒ 人と比べて、自分なんてダメだ
⇒ 人が赦せない
⇒ やってはいけないことをしてしまった
⇒ 人に傷つけられた
⇒ 嫉妬を感じる
⇒ 人を愛したい
⇒ 友だちのことで悩んでいる
⇒ 自分の思い通りにいかない
⇒ ことばで人を傷つけてしまった
⇒ 夫婦関係がぎくしゃくしている
⇒ 子育てに不安を感じる
⇒ 本当に大切なことはなんだろう
⇒ 変わらないものなどあるのだろうか
聖書で語られる神の物語を見て、聞いて、知ってください。
© Mars Hill Productions
⇒ イントロダクション
⇒ 第1章:はじめに
⇒ 第2章:選択
⇒ 第3章:死をもたらす病
⇒ 第4章:約束の前ぶれ
⇒ 第5章:祝福となるために
⇒ 第6章:神の約束による民族
⇒ 第7章:神の道を歩むように召される
⇒ 第8章:約束された方
⇒ 第9章:イエスの働き
⇒ 第10章:神の愛と正義が交差する
⇒ 第11章:イエスは復活した
⇒ 第12章:イエスに従う者たち
⇒ エンディング